ワインポートの街を出てすぐ、目と鼻の先に「カストルム・オクシデンス」を望む一見何の変哲も無い場所にそれは有った。人一人身をかがめて入るのがやっとの横穴。
以前アーサー達がカストルム・オクシデンスを突破、地下経路を切り拓いた事で、今はオクシデンスの外側から直接地下への侵入が可能になっている。
「アリゼー御嬢様、アーサー殿達。少々窮屈ですがこちらからお願い致します。どうかお気を付けて、御武運を祈ります。」
ジャ・ブロッカー一等甲兵が、周囲の様子を注意深く窺いながら手招きをする。彼の表向きは黒渦団所属となっているが、その実はアリゼーの護衛及び勅命を受けての隠密活動が本来の仕事の様だ。
「案内御苦労様。さ、アーサー、行くわよ。」
言葉少なにアリゼーが穴の中に入っていくの確認し、アーサー達もその後に続く。入口は目立たぬ様に最小限の大きさに作られていたが、中はヒューランであれば普通に立って歩ける程度の広さが確保されていた。
ルガディンやエレゼンでも少々身を屈めれば問題なさそうだ。薄暗い坑道の中は少し湿り気を帯びていると同時に外部との明らかなエーテル濃度の違いを感じ取る事が出来た。
「いよいよですね。」
気付くと横にはエレゼンの竜騎士の姿。思えば彼、クロノス・クロノスから連絡を受けたのが始まりだった。
数週間前
「アーサーさん、アリゼーが例の・・・、カストルム・オクシデンス地下調査に向けて名うての冒険者を募っている話は御存知で?」
「ああ、聞いている。」
「私もあそこに何が有るのか知りたい。きっと我々の想像も付かぬ様な何かが待ち受けている予感がしますが、自らの力量を試す上でもうってつけかと。で、LSのマスター相談したのですが、盾はアーサーに任せれば良い、と。」
「まったく・・・。」
少し苦笑いを浮かべながら、鮮やかな桃色の髪色をした白魔導士のミコッテを思い浮かべた。
グレイ・チャンキー。
アーサーとはフリーカンパニーを同じくする関係であると共に、彼女は冒険者ネットワーク、我々が通称LSと呼んでいる組織のマスターでもある。
盾が足りないと言っては宿で眠っていたアーサーを叩き起こし、ヒーラーが足りないと言っては仕事中のはずのアルティコレートをビスマルクまで呼び出しにいくなど、少々無茶をするきらいは有るが、その持ち前の明るさは人を惹きつけて止まず、彼女のLSの下にはいつの間にか多くの冒険者が集まっている。
「で、どうされます?」
「行くさ、勿論。いずれは行かねばと思っていた所だ。ただ、アラガントームストーンを集めてロウェナの所で装備を整えたいので少し時間が欲しいが。」
「そうですね。では、2週間後で如何でしょう?」
「心得た。」
「他の冒険者については私の方で声を掛けておきますので。では2週間後、ワインポートで。」
「宜しく頼むよ。」
「でもさぁ、ホーント楽しみだよねー♪」
今回の調査のきっかけとなったやり取りに思いを馳せていたアーサーの背後から能天気なグレイの声が聞こえてくる。
「ふふっ・・・、彼女らしいですよね。」
「ま、あれでちゃんと考えてはいるし、苦境に有っても明るさを失わないあの性格には何度も救われているからな。」
「ですね。」
アーサーとクロノスは顔を見合わせて少し微笑んだ後、また前へと歩を進めた。少しの後、坑道内が徐々に明るくなっている事に気付く。どうやら目的地は近い様だ。
「・・・・・・・・!!」
坑道の先を曲がった所に突如として現れた光景にアリゼーとアーサー達は思わず息を呑んだ。まるでクリスタルの洞窟。
偏属性エーテルがびっしりと貼り付き、息が詰まりそうな程のエーテル濃度。第七霊災をもたらしたメテオの正体、月の衛星ダラガブの破片が地脈を貫いた事によってエーテルが噴出した証。
そしてその手前にはこの光景に不釣り合いな無機質の足場や手摺、タラップが設けられている。恐らく帝国軍が調査の一環として設置したものであろう。
「さぁ、先に進みましょう。このエーテル濃度では我々も長時間の調査は危険、立ち止まっている余裕は無いわ。」
アリゼーが駆け出すと共に、8人の冒険者も一斉にその後を追った。
はやる気持ちを隠せないかの様に。
ー続くー
※3/28 一部登場人物について、許可を頂きましたので人物名を加筆修正致しました。
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