メテオ探査坑浅部 地下237ヤルム
帝国軍が設けた足場が途切れた先に有るクリスタルの洞窟の入り口、そこでアリゼーが歩を止める。彼女の視線は洞窟の奥の一点に向けられており、その表情からは驚きが見て取れた。
追い付いたアーサーも彼女の視線の方向に目をやる。そこにはクリスタルとはまた違う、今迄目にした事の無い様な異質な物体が有った、いや浮遊していた。
そして、機械音声が洞窟内に響く。
『シンニュウシャ、ハッケン。シンニュウシャ、ハッケン。タダチニタイキョセヨ。タダチニタイキョセヨ。』
遠目からは真っ黒な球体に見えるその異質な物体がどうやら機械音声の発信源の様だ。アリゼーと冒険者達の存在を認識したらしい。
「そうか・・・帝国軍はこれを求めてたんだ・・・・・・。 古代アラグ文明の超越した技術力を、 我が物にしようとしたんだわ・・・・・・。 私たちは、古の秘密に踏み入ろうとしている。 危険な戦いは避けられないけれど・・・、第七霊災の真実をつかむまで諦めるわけにはいかない。 さあ、ここからが本番よ。 ・・・・・・あなたたちの力で、道を拓いて!」
「望む所だアリゼー、下がっていろ。」
寡黙な銀髪の戦士は短く言葉を発するとアリゼーの前に進み出て、アーサーの横に並んだ。
「アーサー、どうする?」
「何せ古代アラグの骨董品、一筋縄ではいかないはずだ。まずは初撃は俺が取ろう。サポートを頼む。」
「了解。」
二人の間にあまり多くの会話は要らない。
アーサーはコルタナとホーリーシールドを、銀髪の戦士は両手にブラビューラを構える。いずれも名工ゲロルトが蘇らせた伝説の武具。
「よし、行こう!」
偏属性クリスタル混じりの地面を蹴ってアーサーが一直線に駆け出す。突っ込むアーサーに付き従うかの様に戦士が、更にその少し後をアタッカー、キャスター、ヒーラーと続いていく。
アーサーが近づくにつれて漆黒の球体の表面に葉脈の様な赤い筋と目玉の様な不気味な模様が浮かび上がり、再び機械音声が響き渡る。
『セイギョシステムサドウ、シンニュウシャヲハイジョシマス。』
「悪いが先に進ませて貰うぞ!」
アーサーが最初の一太刀を浴びせた直後の事だった。
球体の表面が更に赤く光り輝いた刹那、洞窟内に雷鳴の様な衝撃音が鳴り響く。球体が放電、その電流がメンバー全体を襲ったのだ。
「ぐぅっ・・・・、か、らだがしび、れる・・・。エスナ頼むっ・・・!」
「い、ま・・・、やってるよっ!」
グレイが全身を襲う痺れに耐えながらエスナの詠唱を開始する。魔法の力で体が包まれる感覚は確かに有った、しかし、身体の麻痺状態は解除されない。
「だ・・・、め・・・・!エスナじゃ解除出来ない!」
「くそっ・・・!」
混乱に陥る冒険者達に制御システムが更なる追い討ちを掛ける。近接範囲へのリペリングカノン、一直線に凄まじい速さで放たれる透過式のレーザー砲、後方に居た何人かが弾き飛ばされるのが目に入った。
そして再び球体が赤く輝きだす!
「まずいっ・・・!もう一度あの麻痺を食らったら・・・!」
「機会攻撃、ブラントアロー!」
力強い声と共に思念の力を帯びた青白い矢が白く帯電しつつあった球体の中心を射抜く!すると一瞬その球体は輝きを止め、放電する事は無かった。
「止まった・・・?!」
「アーサー!!」
視界の片隅に在っても一際目立つ長身のルガディンの詩人の姿。ウェントブリダ・ステルウィルフィン、彼女の渾身の一撃が制御システムの攻撃を食い止めたのだ。
「思った通りだ、ヤツの放電は止められる。君のスピリッツウイズインを使えっ!レーザーの後にまた来るぞっ!」
そう、アーサー含め浮き足立つメンバーの中で彼女だけが冷静にシステムの攻撃を止める為の仮説を立て、それを実行してみせたのである。
その仮説とは、アラグの兵器であればその動作の源は魔導力に有るはずであり、沈黙の付加効果を持つ攻撃を以ってすればその攻撃を止められるかもしれない、という物であった。
「よし、これで反撃に移れる!」
「後ろっ!!」
リペリングカノンを後ろに跳び退いて躱し、再び剣を構えた瞬間、今度は後方からの声が響く。
振り返ったアーサーの視界に飛び込んで来たのは一回り小さいとはいえ、目の前に居るのと同じ様な漆黒の球体、増援だ。
『ケイビシステムサドウ、シンニュウシャヲハイジョシマス。』
「・・・・・・!何てこった!」
「アーサー、後ろは任せろ。お前の剣と詩人の弓でヤツの高圧電流を止めるんだ。」
「任せたっ!」
銀髪をなびかせながら戦士がアーサーの脇を表情一つ変えずに、しかし力強く駆け抜けて行く。そんな頼もしい相方の姿を横目に見送りながらアーサーは再び球体と対峙する。
レーザー攻撃を真下に滑り込んで躱し、背後に回り込むや素早く反転し、コルタナに精神の力を注ぎ込む。そして、制御システムが放電の予兆を見せた瞬間を彼は見逃さなかった。
「ここだっ!スピリッツウイズイン!」
光を帯びたコルタナが制御システムを貫き、球体を覆っていた光が霧散する。
そして、ここをチャンスと見るや各自一斉に攻撃を浴びせる傍ら、銀髪の戦士が後方で増援の攻勢を食い止め、ヒーラーは全力でそれをサポートする。
制御システム本体の攻撃はその勢いを弱めつつあったが、一方で後方には更にもう一体の球体が増援として現れ、一旦は冒険者達に傾いた戦いの趨勢は微妙な物となっていた。
「まずいっ!長引くと後ろがもたなくなるぞっ!」
「任せて下さいっ!此処で終わらせます!」
クロノスはそう力強く宣言するや、身構えて精神を集中させる。
「リミットブレイクか・・・!!頼むっ・・・!」
アーサーが後ろを向いてそう告げた刹那、漆黒の鎧は空気を切り裂く音を残し一瞬にしてアーサーの視界から消えた。そして、再び向き直った時に目にしたのは制御システムを取り巻く輝く無数の刃の残像と、上方から一筋の流星の如くゲイボルグと共に舞い降りる竜騎士の姿。
次の瞬間、衝撃音と共に無数の黒い破片と粉々に砕け散った偏属性クリスタルが飛び散る。ゲイボルグの切っ先は制御システムのど真ん中を貫通しただけでなく、偏属性クリスタルで覆われた洞窟の地面に深々と突き刺さっていた。瞬間最大火力における竜騎士のそれは他に類を見ないが、クロノスもそれを如何無く発揮してみせたのだった。
バチッ・・・、バチッ・・・。
電流と火花を散らせながら球体は徐々に赤い光を失い、数分の後、完全に沈黙した。それと同時に二体の球体はデジョンがかかったかの様に冒険者達の前からその姿を消した。
「危なかったな・・・・・・。」
「初っ端から随分と手荒い歓迎を受けたもんですね。」
「にしても助かったよ、ウェント。」
アーサーは興味深そうに残骸と化した球体を眺めている詩人に声を掛けた。
「うん、実はイチかバチかの賭けだったんだが、上手く行って良かった。にしても、挙動から想像するに、こいつらは古代アラグのガードシステムの一種ではないだろうか?」
「俺もそうじゃないかと思ってる。となると、この先また遭遇する可能性も高そうだな。」
「えぇ~!こんなのがこの先ウジャウジャ出てきたら大変じゃん!ってかさ、アーサーさ、次はこいつの電流全部止めてよね!」
グレイがタイラスで球体をコンコンと叩きながら、頬を膨らませてアーサーに抗議した。
「また随分と簡単に言ってくれるなぁ・・・。」
まず最初の関門をクリアした冒険者達が暫しの安堵感に浸っている中、背後からアリゼーの声が聞こえてきた。
「はいそこまでよ!みんな御苦労様、流石ね。『光の戦士達』の異名は伊達じゃない、って所かしら?取り敢えず先へ進みましょう。」
アリゼーに促された冒険者達は彼女と並んでまばゆい輝きを見せる洞窟を潜り抜けた。
この先には一体何が・・・・?
冒険者の性であろうか、皆の顔には一様に未踏の地へと踏み出す期待感とこれから更に待ち受けるであろう厳しい戦いを覚悟する表情が入り混じっていた。
-続く-
※3/28 一部登場人物について許可を頂きましたので人物名等、加筆修正致しました。
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