偏属性クリスタルの洞窟を抜けた先に広がる巨大な空間。その先には未だ嘗て冒険者達が目にした事の無い様な光景が広がっていた。
大小無数の六角形の柱がそびえ立ち、張り付いた偏属性クリスタルがその柱を繋いでいる様はさながらクリスタルの回廊の様。そして、エーテルの霧が産み出す霞の向こうには宙に浮かぶ幾つもの巨岩の塊がまるで岩礁の様に見え隠れしている。
そして、アリゼーが見上げた先、吟遊詩人が奏でる琴の弦の様に張り出した偏属性クリスタルの先にそれは確かに存在していた。
「あれは・・・・・・!翼・・・・・・? なんていう大きさなの・・・・・・!」
空を覆うような漆黒の翼・・・・・・。誰もが分かっていた、この世の中であれ程の巨大な翼を持つ存在、それが何であるのかを。
「間違いないわ。 あれは蛮神『バハムート』の翼・・・・・・。 5年前にエオルゼアを焼き払ったあいつの翼よ! 」
カルテノーの戦いの最中・・・・・・。
ダラカブから解放された「バハムート」を再封印する為、アリゼーの祖父、賢人ルイゾワは「エオルゼア十二神」の力を顕現させた。 しかし、バハムートは十二神の力を打ち砕き、 最後はルイゾワもろとも閃光の中に消え、その後の行方は杳として知れないまま今に至っていた。
「まさか、こんな場所にあったなんて・・・・・・。 でもバハムートが伝承のとおりに蛮神だったなら、 倒された時にエーテルに還るはず・・・・・・。 お祖父様は勝ったの? それとも・・・・・・。」
彼女の誰に投げ掛けたでもない問いに答えられる者は誰一人としておらず、眼前を覆うその翼に息を飲む事しか出来なかった。
「先へ進みましょう。 お祖父様の意思を無駄にしないためにも、 真実を確かめないと。」
アリゼーは強い決意を秘めた口調でそう呟くとクリスタルの回廊へと歩を進めていく。
「どうやらこりゃとんでもない所に来ちゃったみたいだねぇ・・・。」
「ですねぇ・・・。」
頭の後ろで手を組んで翼を見上げながら歩くミコッテ・ムーンキーパーの黒魔道士の隣でミコッテ・サンシーカーの学者が相槌を打つ。
「しかし、あのバハムートの巨躯を取り込んでいるとすれば、此処の広さは一体どれ程なのでしょう・・・。」
「分からない・・・、正に大迷宮・・・、だな。」
偏属性クリスタルで出来た橋梁を踏みしめながらアーサーは呟く。
「ん・・・、やはり簡単には先に進めそうにないぞ。」
ウェントブリダが手を額にかざし、目を細めながら遠くをうかがう。弓を扱うが故に遠目の利く彼女の眼はその先で蠢く無数の魔物の姿を捉えていた。
「雑魚に手間取っている様じゃどの道この先には進めないさ、一気に駆け抜けよう!」
アーサーの掛け声を号令にして皆が駆け出す。程なくして侵入者の気配を感知した魔物達が一斉に冒険者達に群がる。しかし、逆にそれを待ち構えていたかの様に黒魔道士の範囲魔法が魔物の群れを焼き尽くす。
ダラガブが落下した際に恐らく地表から取り込まれたと思われる魔物達は偏属性エーテルの影響で狂暴化してはいたものの、彼らとて幾多の死線を潜り抜けてきた歴戦の兵である。この程度の相手に後れを取るはずもなく、更に先へと歩を進めていく。
唯一、エーテル障壁の前に番人の様に配されていた二体のゴーレムの放つ衝撃波には少し手を焼いたものの、それとて彼等を窮地に追い込むまでには至らず、最後にはただの土くれと化した。
ゴーレムを倒した事によってエーテル障壁は解除され、アーサー達はその先の緩やかな上り坂を登っていく。
その坂を登り切った先にはこれまでとは明らかに異なる風景が広がっていた。
偏属性エーテルに覆われた地面はそこで途切れ、その先には高さの異なる六角柱が合わさって出来た広大な広間。
「此処は・・・・・・・?」
これ迄の幾多の経験から来る冒険者としての勘が彼らに告げる、『此処には何か有る、気を付けろ。』と。
その時だった、広間の一番低く窪んだ部分からゆっくりと姿を現したそれは、まるで何も無い所にいきなりそびえ立った塔の様に見えた。
「何・・・、あれ・・・・?」
グレイが呟く。
目が慣れるに従って冒険者達はそれが何であるかを認識した。塔などではなく、ゆらゆらと揺れながら鎌首をもたげる恐ろしく巨大な蛇そのものである事を。
「あれは・・・、まさか、カドゥケウス・・・・・・!?」
体長だけであればイシュガルドのドラゴンを軽く上回るであろう大蛇をアリゼーはそう呼んだ。
「カドゥ・・・ケウス・・・?」
「ええ、聖コイナク財団がクリスタルタワー周辺遺跡で発掘調査を進める中で見つけた壁画。その中に描かれていたのは、古代アラグ人に使役される大蛇の姿。そしてその壁画に記されたアラグ文字を解読した結果、『我らはダラガブの番人として、カドゥケウスを此処に配す。』と書かれていたの・・・。」
ー続くー